10月にリニューアルした「フロントティー専用マシン」FFRT-501Mが発売早々、人気になっている。先代となる、初代フロントティー専用マシンFFRT-500Mが発売されたのは2022年。3年の間に、練習としての「フロントティー」の認知度もかなり上がり、新型機は期待とともに迎えられたようだ。
社会人チームの練習で見たのは…
フィールドフォース社長・吉村尚記が「フロントティー・マシン」開発を思い立ったのは2019年。高校時代の同級生、飯塚智広さんが当時、監督を務めていた社会人野球チーム、NTT東日本の練習場に、頼まれていたネットの納品で訪れた時だった。

「フィールディングネット・イレギュラー(FPN-8086F)という商品がありました(現在はリニューアル版がFPN-8086F2として販売中)。弾性係数の異なる2枚のネットを重ね合わせた構造により、投げたボールを不規則な角度で跳ね返すという、守備練習のためのネットです。飯塚がこれを気に入ってくれて、市販品は軟式用だったのですが、硬式球での使用に耐える強度にしたものを作り、持って行ったんです。主にバント処理など、ピッチャーのフィールディングの練習で使ってもらっていたようで、翌年の都市対抗でNTT東日本が準優勝した時には、礼を言ってもらったんですよ」
吉村が当時を振り返る。

そうだよ、これなんだよ…
ネットの納品に訪れた練習場で、同野球部の練習を見ていた吉村の目に留まったのは、選手らが取り組んでいるティー打撃だった。通常、打者の斜め前から上げてもらったトスを打つことが多いこの練習を、NTT東日本野球部では、正面からのトス上げにより、行っていたのだ。

「この練習法は飯塚の考えによるものだったんですが、実は私も以前から、斜めからのトスによるティーバッティングには、少なからず疑問を持ってたんです」
正面の投手が投じる球を打つ実戦とは異なり、斜めから来るボールを、体の正面にあるネットに向かって打ち返すティーバッティング。ボールが来た方向とは違う方向に打ち返すことになり、姿勢や体の使い方、スウィング自体にも制限が生じるため、練習としては一考の余地あり、と感じていたというのだ。
「特別な目的があるならばともかく、やはり基本となる練習は、前から来たボールを前に打ち返すことですよね。NTT東日本の練習を見て、『これだよ』『そうだよな』って、腑に落ちたんです」
NTT東日本の練習では、トス上げ役は、打者の正面7、8メートル先にあるネットの脇からトスを出し、さっとネットに隠れる動きを繰り返していた。投球速度は20~30キロといったところか…。その様子をスマートフォンで動画に収めながら、吉村は考えていた。

「社会人野球の選手がやる分には、なんということもない動きかもしれませんが、同じ練習を子どもがしようとすると、結構な危険性が出てきます。でも、そのトス出しをマシンでできたら、その心配はなくなるよな~、と」
会社に戻った吉村は早速、フロントティー・マシンの開発に取りかかったのだった。
試行錯誤の末に…
さかのぼること3年、2016年にフィールドフォースは個人練習用ギアとして、正面から短い距離のトスを上げてくれる、ネットと組み合わせることで「オートリターン」としても使用可能な、硬式・軟式用トスマシンFTM-230を開発、発売している。トスを上げる発射部の構造原理は、これと同じでいけるのではないか──。

「もちろん、参考にはしましたよ。ただ、上に向かってポーンと上げていたトスを、そこそこの距離、前に飛ばさなきゃいけない。そのためには、はるかに大きな出力のモーターを使わなければならず、それにつれて、全体的なサイズ感はかなりアップしてしまいます。あわせて、筐体の強度も上げないといけません。思った以上に苦戦しました」
動力機構としては個人向けトスマシンを参考にしたものの、マシン自体のサイズ感は、チーム向けの本格的ピッチングマシンに近い。ボールをためておけるバケット部と、そこから1球ずつ、供給する仕組みが必要なのも同じだ。とはいえ、ピッチングマシンと仕組みや部品が共用できるわけではなく、1からマシンを作り上げる必要があった。

何度も試作を重ね、徐々に形になっていったフロントティー・マシンだったが、「一番、苦労したのは、トスを安定させることでした」と吉村が振り返る。
ボールをためておくバケット部と、そこから一球ずつボールを落とし、発射部にセットする機構は出来上がったが、発射部にセットされたボールがしっかりと静止していないと、トスのコントロールが定まらないのだ。
「連続でボールを供給するところまでは、うまくいったんです。ただ、最後の部分です。発射部に落ちたボールのカタカタというブレを、うまく止めることができない。ここでは、ボールの縫い目は『突起物』なんです。完全な球体ではないから、一球一球、同じような動きをしてくれないんですよね。それらを全て受け止め、ピタリと止めなければいけない」
たどり着いたのは、最終的にボールを受け止める役割も持つ、発射板に貼り付けたクッション材だった。

「発射板の表面にニードルフェルトという、フェルトをけば立たせたような素材を緩衝材として貼り付けるんです。厚みや、繊維の密度が違うニードルフェルトを、クッションの具合を観察しながらいくつも試し、ようやくボールのブレを止められる厚さのものが見つかったんです」
当初の予想以上の試行錯誤を重ね、初代フロントティー専用マシンが完成したのだった。
「フロントティー」は定番練習に!?
開発スタートから3年。ようやく発売にこぎつけたフロントティー・マシンは、チーム単位はもちろん、個人ユーザからも多くの引き合いがあり、順調な売れ行きを記録した。
「チームと個人、半々くらいだったと思います。年齢的には、学童よりは上ですね。中学、高校、大学…。社会人チームにも結構、導入していただきました。とくに指導者の方などは、『フロントティー』の練習が、私と同じように、以前からなんとなく頭にあったんじゃないかと思うんですよ」

吉村はそう説明する。彼がNTT東日本野球部の練習を見て感じたのと同様に、フロントティー・マシンを見たときに「これだよ」と感じた人も多かったのだろう。
新たな練習の形を提示したのか、あるいは潜在的にあった練習法を具現化したのか──。いずれにせよ、FFRT-500Mが野球練習の風景を、少し変えたとはいえるかもしれない。
リニューアルで変わったのは…
そして、今回のリニューアルである。
全体がブラックに塗装され、見た目も変わった、新型フロントティー専用マシンFFRT-501Mでは、初代機ユーザーから寄せられた意見からのフィードバックがいくつかある。
バッターから見て一見して分かる違いは、ボール発射口の上部に、新たに開けられた切り欠きだろう。これはボールを待つ打者の準備のために開けられたもの。次のボール、さらにその次のボールの動きを把握できることで、打席での準備もできるように、と新たに加工されたものだ。これは「発射までのボールの動きがもう少し見えると、タイミングが取りやすい」というユーザーの声が反映されたものだ。初代では「空撃ち」状態になって初めて気づいたボール切れも、あらかじめ目視で確認できるようになった。

もうひとつ、初代は本体とバケット部が独立し、二つの箱を二本の柱でつないだような形だったが、新型は本体とバケット部が一体となったデザインに変わっている。
マシンが発射するトスの角度は、発射口の向きを変えることで調整する。初代では①支柱と本体をつないでいるネジを緩め、②本体を傾けて、③再びネジを締める、という三段階の作業が必要だったが、新型では本体後部にあるハンドルを回すことで直接、本体が傾く仕組みになっている。
「細かな部分でいえば、発射部の下部に穴を開けました。ボールに砂がついたまま使い続けてしまうことで不調になることも多かったので、砂が落ちるようにでしたんです」

リモコンで一人練習もラクラク!
もうひとつ大きく変わったのは、機械のオン・オフをリモコン操作できるようになったことだ。
パートナーに斜めのトスを上げてもらていたティーバッティングに比べ、一人でも容易に実行可能なのが「フロントティー・マシン」を使ってのティーバッティング。新型では、これにリモコン操作も加わったことで、バケット部にボールを入れておけば、打席に入ったタイミングでマシンをオン、やめたいタイミングでマシンをオフと、完全に一人で練習に取り組むことができる。

修理担当も笑顔です
もっとも、リニューアルの恩恵を受けるのは、ユーザーばかりではない。本体とバケット部の一体化により、本体内部の空間が広くなったことで、マシンのメンテナンスが容易になったのだ。初代では、本体内部に故障があったときは、バケット部を取り外した後、本体の蓋を開けるところから修理をスタートしなければならなかったが、新型では本体背面のパネルを開ければ、即座に主要部品にアプローチできる構造になっている。
「作業が随分、楽になります。それと、見た目ではわかりませんが、内部の基盤も、万一、水が入った時にも影響を受けにくい場所に配置されていて、故障のリスクも減っていると感じています。いやぁ、良かったです」と修理工房の井口大也もニコニコなのだ。
